アメリカ大学院で行われるQualifying Examって何だ?経験者が語るQualifying Examのすべて


アメリカ大学院の博士課程にはQualifying Exam(クオリファイイング・イグザム)と呼ばれる独特の試験があります。

日本の大学院にも導入され始めているみたいですが、アメリカ大学院に特有ともいえるこの試験、いったい何が行われるのか?

合格するとどうなるのか?または不合格ならどうなるのか?

アメリカ大学院博士課程を卒業した私の体験談を交えて詳しく解説します!

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アメリカ大学院のQualifying Examとは何なのか?

アメリカ大学院に特有の試験【Qualifying Exam】はざっくり説明すると博士候補認定試験です。

大学院で勉強・研究を続けて最終的に博士号(PhD)を取る資質があるのか?テストされます。

これに合格すると、正式に「博士候補(PhD candidate)」になれます。

Qualifying Exam合格前と合格後では明らかな待遇の違いがあります。

例えばアメリカの大学院では教授だろうが先輩だろうがファーストネームで呼び合うことが多いですが、教授によってはPhD Candidateになってから初めてファーストネームで呼ぶことを許す、と言うルールを敷いている人もいます。

また私が卒業した大学院ではQualifying Examに合格すると年間の給料が500ドルアップしました。

それくらいQualifying Examはアメリカ大学院で大きなウェイトを占めているんです。

この試験はだいたいどの大学院でも博士課程の2年目か3年目に実施されることが多いみたいですね。

私が卒業した大学院では2年目終了までに合格しなければならないというルールでした。

ですから、博士課程の中間試験的な意味合いがあるのかもしれません。

Qualifying Examでは何をするのか?不合格だとどうなる?


Qualifying Examはアメリカの博士課程ならどの大学院でもありますが、形式はバラバラです。

普通の筆記試験形式のところもあれば、口頭試験のところもあり、その両方というところもあります。

ユニークなQualifying Examの1例を挙げると、こんなのがあります。

学生が部屋に通されると教授が1人待っていて、その教授が学生の専門科目に関する問題を1題出題します。

教授の前で回答を説明しながら解いて、教授が回答に満足すればその部屋は合格。次の部屋に通されます。

次の部屋ではまた別の教授が待機していて、また別の問題を出題される。そして学生は同じように教授の前で説明を交えながら回答します。

これを3回繰り返してやっとQualifying Exam合格!となるそうです。まるでなんかのアトラクション!

また知り合いの日本人留学生の先輩は20年前にアメリカ大学院でQualifying Examを受けたそうですが、彼の受けた試験はなんと半日にわたる筆記試験を2日続けて行ったそうです。

試験は持ち込み何でもOK。クラスメイトの中にはスーツケースいっぱいに教科書やノートを詰め込んで持ち込んだツワモノもいたんだとか。

今ならパソコン1台あればどうにでもなりそうな気もしますが。

ちなみに私が受けたQualifying Examは、自分の博士研究に関する今後5年間の研究計画を書き、その研究計画に関する口頭試験を受けるといった感じでした。

私のQualifying Examについては、後ほど詳しくご紹介します。

さて、形式はいろいろとあるQualifying Examですが、たった一つだけどの大学院にも共通することがあります。

それは不合格だと退学になるということです。

厳しいようですが、アメリカの大学院博士課程は1人前の研究者の育てることを第一目的としているので、資質がない人は早めに諦めてもらうほうが本人のためでもあるのです。

またアメリカの大学院は学生に給料を払わなくてはいけないので、やる気がなかったり、仕事が出来ない人がいつまでも居座ると経済的な損失が生まれます。

そういう意味でも、Qualifying Exam不合格=クビは理にかなっているのかもしれません。

ちなみに私が出た大学院では1回不合格でも、もう一度チャンスがありました。

私のクラスメイトで2回連続で落ちる奴はいませんでしたが、Qualifying Exam不合格で退学になった学生がいるという噂を在学中に何度か聞いたので、2回連続で落ちる奴もいたんだと思われます。



入学以来最大のピンチ!私のQualifying Exam体験記①

私がQualifying Examを受けたのは、大学院入学後2年目の最初でした。

さっきも書きましたが、私の大学では自分の博士研究について今後5年の研究計画書を書き、それについての口頭試験を受けるというQualifying Examでした。

研究計画の書式は、独立した研究者がアメリカ政府の公的機関に提出する研究計画と同じフォーマットで書きます。

つまり、研究計画を書くこと自体、研究者としてのトレーニングとなっているわけです。

今後5年間で自分の研究をどのように発展させていくのか?予想される実験結果から何が分かるのか?なぜその研究が世の中の役に立つのか?またうまくいかなかったらバックアップのプランはあるのか?などを、12ページほどの研究計画書にまとめます。

12ページも英文をびっしり書くのですから、それなりに時間がかかります。

研究計画書を書いたら、所属する大学院の教授陣の中から自分で審査員を2人選びます。

当時は自分で試験官を選ぶっていうのがアメリカっぽくて面白いなと感じました。

まあこれがのちのち大問題を生むわけですが。

そして、二人の審査官がもう一人の教授を第三の審査官を任命します。

私が通った大学院では、全部で3人の教授からなる「コミッティー」が生徒のQualifying Examを担当します。

ユニークなのは、指導教授はこのコミッティーには入れないという点です。

博士研究の指導教授は、研究計画を書く際のアドバイスは受けることが出来ますが、Qualifying Examの審査官にはなれないのです。

親の力を借りずに自分の力で突破してみろ!というコンセプトですね。

私は自分で選べる審査官2名に、同じ学科のオジサン教授と、TAでお世話になった他学科の教授を選びました。

オジサン教授は数回話したことある程度の関係でしたが、いつも冗談を言っている気のいいおっさんという感じだったので、ほとんどフィーリングでお願いしてみました。

ところがこの教授、ふたを開けてみるととんでもない曲者で、私が研究計画書を書き上げて提出すると、ボロクソにこき下ろしてきました。

ボロクソに批判すること自体はいいんです。学生のためになりますから。

でもその批判と言うのが、全く的を得ない、ほとんど答えるのが不可能ともいえる批判だったのです。

Qualifying Examは学生の博士研究をもとにした【研究計画】を提出します。

ところがそのオジサン教授は、その博士研究テーマ自体を全否定。

「そんな実験をする前に、〇〇をやったほうがいい。お前のテーマはクソだ。」

と言わんばかりの批判です。学生側は、これをやられるとどうしようもありません。

だって博士研究のテーマって指導教授と話し合って決めたものであって、Qualifying Examはそれをもとに研究計画を立てないといけないんですから。

私は当時ウブだったので、きっとこのオジサン教授は何か勘違いをしている!きちんと説明すれば、きっとわかってくれる!と、教授とアポを取って研究計画書の真意を説明しようとしました。

ところがアポを取ろうと思ってメールを出したら、30分後に突然私の研究室にやってきて

「よし、俺の前で説明してみろ。」

と言い始めました。私は全く準備が出来ていませんでしたが、拙い英語で研究計画書の概要を丁寧に質問しました。

するとそのオジサン

「いや、だから何回も言ってるけど、お前の研究テーマはダメだから。こっちの実験をやらないと意味ないから。」

とかなり高圧的に頭ごなしに全否定。しかも研究室のみんなの見えている前でこれです。

「全部書き直さないと全然だめだから。じゃあ。」

と吐き捨てるようにオジサン教授は部屋を出ていってしまいました。

あまりの出来事に周りのみんなに後で慰められましたが、入学以来最大限に凹んだ事件でした。

そして、Qualifying Examに合格しないとクビになるのは知っていたので、(ああ俺はこのまま退学になるんだ...。)と途方に暮れたのでした。




指導教授が見かねて助け舟!私のQualifying Exam体験記②

オジサン教授をなんとか説得しようと試みていた私の心がコテンパンに打ち砕かれた出来事でしたが、アメリカには他人がピンチになると助けてくれる人が必ずいます。

今回は指導教授の奥さんが助けてくれました。

指導教授の研究室で研究員としてずっと働いている奥さんがわざわざオジサン教授のオフィスまで行って、「学生を人前で頭ごなしに否定するのは人としてどうか?」とオジサンを諭してくれたのです。

さらに指導教授も援護射撃してくれました。

オジサン教授と個別にミーティングをして、

「彼の研究テーマは俺が認証したものだ。気に入らないならコミッティーを辞めろ。」

と半ば脅しのようにコミッティー辞任を迫ったそうです。

こうしてオジサン教授は

「この前はすまんかった。俺の態度はよくなかった。今回は縁がなかったから、コミッティーを辞任する。」

と私の元まで直接謝りに来て、さらにコミッティーを辞任したのでした。

この事件の間、コミッティーのもう一人の教授は我関せずでだんまりを決め込んでいて、全く役に立ちませんでした。

でももう諸悪の根源だったオジサン教授はいません。

私は急ピッチでコミッティーを引き受けてくれる代わりの教授を探し出し、気分も新たにもう一度、修正を加えた研究計画を新コミッティーに提出しました。

すると、あっさりと合格。

そして最後の関門である口頭試験へと進んだのでした。

ディフェンスと呼ばれる口頭試験!私のQualifying Exam体験記③


研究計画書にOKが出ると、続いてディフェンス(defense)と呼ばれる口頭試験を受けます。

なぜdefenseと呼ばれているかと言うと、コミッティーから研究計画に関するありとあらゆる質問攻撃を受け、学生はそれらの質問に対して防御(=defense)しなくてはならないからです。

ちなみにこのディフェンス試験ですが、博士論文を完成させてから卒業する際の最終試験としても採用されています。

なのでQualifying Examのディフェンスは最終試験の予行演習と言ったところでしょうか。

私の場合はコミッティーとなった3人の教授を前にして、研究計画書について根掘り葉掘り聞かれる形式でした。

試験時間はだいたい2時間です。

質問の中には答えるのが非常に難しいものもあったり、研究計画とはあまり関係ないものや、科学の基礎知識を問うものもありました。

理想的にはすべての質問によどみなく答えられれば100点満点なんでしょうけど、そんなことはあり得ません。

絶対に答えられない超難しい質問をされるのがこのディフェンス試験の特徴でもあります。

答えが分からない質問に対してどう反応するか?ということも見られているのです。

2時間汗をダラダラかいて、3人の教授からの質問攻撃をしどろもどろに答えるとやがて1人の教授が言います。

「じゃあ、そろそろ試験終わりにするから、部屋出ていって、10分後くらいに呼んだらまた入ってきてね。」

これが試験終了の合図です。

試験終了後、学生は退室させられ、その間教授たちは学生の試験の出来について話し合います。

こいつはPhD candidateととしてふさわしい実力を持っているのか?を話し合うのです。

「よし、いいよ。入っておいで。」

再び部屋に招かれると、3人の教授はみな笑顔です。

「Congratulations! You are officially a PhD candidate!(おめでとう!君は正式に博士候補生だよ!)」

この言葉でこれまでのすべての苦労が結ばれるわけです。

と同時に、これからPhD candidateとしてもっともっと研究に精進して、1人前の研究者となるトレーニングに勤しまなくては!と決意を新たにするのも、またQualifying Examの目的なのかもしれません。

まとめ

Qualifying Examは日本の大学院でも導入するところが増えてきていると聞きますが、本場のアメリカではこんな感じです。

形式はいろいろありますが、おおむね博士課程の中間審査として機能しているのではないかと思います。

研究計画書を書くためにめちゃくちゃいっぱい論文を読んだので、かなり勉強になりました。

Qualifying Examは厳しい試験ですが、まじめにやれば誰でも受かると思います。

英語にハンデがある留学生でも、一生懸命準備すれば合格するような試験だと思いました。

私は自分で審査官に選んだ教授とトラブってしまいましたが、そういうのも含めてよい経験でした。

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